中国針灸「精誠堂(せいせいどう)」【千歳烏山 本院】東京都世田谷区南烏山5-9-2 【飯田橋針灸マッサージ治療院】東京都千代田区富士見2-2-3 ドーム飯田橋1F
前回、"赤ひげ先生"のお話しが引用されている書物を読んで考えさせられたことをお話ししました。
その書物は、前回も紹介した通り「EBM」の考え方を紹介するために「疫学」を専門とする医師が書いた書物です(康永秀生・著/NHK出版新書『すべての医療は「不確実」である』)。
西洋医学・現代医学で提唱されているこの「EBM」という言葉を耳にしたことがある人は少なくないと思います。
「エビデンス」、つまり「(科学的)根拠に基づく治療」ということです。
しかしこの本を読んで、先ずこの「EBM」についての私自身の知識、理解、認識の低さを知って恥ずかしい想いをしました。
そして同時に、人の健康や施術に携わっている者として、大いに反省させられたこともありました。
本書にはEBMについて次のように書かれています。
(略)EBMとは、個々の患者に対する臨床判断の局面において、最新かつ最良の科学的根拠を、明示的かつ良心的に一貫して適用することである。同時にSackett博士らは、EBMとは「科学的根拠、患者の意向、臨床能力の三つを統合すること」であるとも説いている。つまりEBMとは、「科学的根拠を一貫して適用する」ことと、「患者の意向」を汲み取ることという、一見すると相反する理論を含んでいる。
医師たちの間ですら、EBMに対する誤解がある 。典型的な誤解の一つが、「EBMを実践することは、科学的根拠を患者に当てはめること」というものである。患者の意向を排除して、科学的根拠を個々の患者に無理やり当てはめるだけでは、EBMとは言えない 。
(康永秀生・著/NHK出版新書『すべての医療は「不確実」である』)
(※波線・太文字はコラム筆者)
今、私自身が身を置いている場所は、いわゆる「東洋医学」と呼ばれる世界ですが、この「東洋医学」という世界に身を置いている者は、そして患者さんの中でも東洋医学がお好きな(?)方の中には、「東洋医学」という言葉を「西洋医学」や「現代医学」という言葉と対比して(あるいは"対立"させて)、そして時には「西洋医学」や「現代医学」に対する"アンチテーゼ"として用いられていることも少なくないように感じます。
そして私たち「東洋医学」を生業としている者の中には、「西洋医学」や「現代医学」が提唱する「EBM」つまり「エビデンスに基づく治療」という言葉に嫌悪感を示し、この「エビデンス」つまり「(科学的)根拠」という言葉に拒否感すら示す施術家も少なくない様に感じます。
「西洋医学」や「現代医学」というものは、まるで人(や病気)を機械かモノの様に診て、扱い、そして細分化され、専門化された狭い範囲しか人(や病気)を診ない。
「東洋医学」は生きた生の人間、各々に異なる個々の人・その人その人一人ひとりを診ているのだ(だから"科学的"などという見方は当てはまらないし、「東洋医学」に"科学的"は不要で、むしろ"科学的"でないところが良い)、といった風に...。
しかし、上述した「医師たちの間ですら誤解がある」とされている「EBM」の考え方というのは、実は医療における"洋の東西"、或いは"伝統"・"現代"などといった区別などは全く関係のない、"患者さんの為"の概念であることが、その他の「EBM」についての記述を見ても分かります。
EBMとは、 「個々の患者のケアに関わる意思を決定するために、最新かつ最良の根拠(エビデンス)を、一貫性を持って、明示的な態度で、思慮深く用いること」、
「入手可能で最良の科学的根拠を把握した上で、個々の患者に特有の臨床状況と価値観に配慮した医療を行うための一連の行動指針 」、
「個々の患者の臨床問題に対して、 (1)患者の意向 、 (2)医師の専門技能、 (3)臨床研究による実証報告を統合して判断を下し、最善の医療を提供する行動様式 」
などと定義されています。(※段落分け、波線、太文字はコラム筆者による)
(※公益社団法人・日本理学士協会のホームページより)
いかがですか?
「EBM」についての一般的な理解(誤解?)や認識は、もしかしたら「 "(科学的)根拠"のある治療を行うか否か?」といったことばかりであるかも知れません(少なくとも私はその程度の理解・認識でした...)。
「EBM」は、単に「"(科学的)根拠"のある治療」を指すのではありませんでした。
そこには「患者の意向」を考慮し、「個々の患者に特有の臨床状況と価値観に配慮」するといった要素があること、医師の臨床能力(専門技能)も含め、こうした様々な要素を「総合して」、「患者にとって最善の医療を提供」する一連の「行動指針」、「行動様式」のことが「EBM」と定義されていました。そのことを、少なくとも私はこれまで知りませんでした。
先に引用した「EBMに対して誤解をしている医師」同様に、もしかしたら、我々「東洋医学」という世界に身を置く者もまた、「"東洋医学"を実践することは、東洋医学の考え方を患者に当てはめること」、とばかりに、「患者の意向を排除して、東洋医学(しかも自己の流派・流儀)の考え方を個々の患者に無理やり当てはめるだけ」になっているのではないか? そして、「個々の患者に特有の臨床状況と価値観」への「配慮」も「患者の意向」の把握も十分に出来ていないまま、患者にとって「何が最善か」の選択が出来ていない、そんな「自分本位の施術」を提供してしまっているのではないか?
...そんな反省をするに至りました。
もちろん「代替医療(補完医療)」と称される世界に身を置く私たちには、日本の法律や制度、資格(免許)の制約において、また自らの技量・能力においても、出来ることは限られています。更には前回お話ししたように、健康維持や病気治療には患者さん個々の"個体の生命力"に依るところも大きく、患者さん自身の協力が必要な部分も少なくありません。
しかしそういった制約や限界がある中においても、許された出来る範囲の中で、そして自分の技量・能力の範囲において、更には患者さん自身にも協力して頂ける範囲において、「患者さんにとって"最善の医療(私たち言えば施術)"を提供」できているのか?
そんなこと反省させられた一冊でした。
同時に、「EBM」についてのみならず、他の様々な事柄においても、その事柄についての正しい知識や認識が無いにもかかわらず、「取るに足らない狭くて浅い知識」と、「誤解を孕んだ認識」とを以って、解ったように物事を評価したり批評したりしているであろう反省も改めてしました。
私の独りよがりな反省を、二回に渡る長い文章にしたのは、実は、前回の「赤ひげの言葉」や、今回紹介した「EBMの考え方」が、医療や施術を受ける側の患者さんにとっても、皆さんが「自分自身の健康と向き合い」、「自らの健康を守る」ための何らかの参考になればと思ったからです。
情報過多で、一面的な偏った情報も氾濫している中、「自らの健康にとってより善い医療や施術(或は施術者)は何か?」、「どういった医療や施術(或は施術者)を選択するのが良いのか?」或いはまた「ご自身でも努力すべきことは何か?」を考える、何らかのきっかけになれば幸いです。
賀偉総院長が施術を行う本格中国針灸の専門治療院
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針灸、マッサージ、中国整体を併設